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久夛良木健氏が語る「好奇心」とAIとの共創 電気通信大学がゲームを中心としたエンタテインメント分野の研究教育拠点「CEREC」のオープニングセレモニーを開催

久夛良木健氏が語る「好奇心」とAIとの共創 電気通信大学がゲームを中心としたエンタテインメント分野の研究教育拠点「CEREC」のオープニングセレモニーを開催
村松 正和 学長
村松 正和 学長

ゲームを中心としたエンタテインメントを工学・理学から探究する新拠点「CEREC」

国立大学法人電気通信大学(東京都調布市)は2026年9月29日、調布キャンパスで「エンタテインメント創造研究教育センター(Creative Entertainment Research and Education Center、CEREC)」のオープニングセレモニーを開きました。CERECは、ゲームを中心としたエンタテインメント分野を工学・理学の視点から研究・教育・社会実装する研究教育拠点です。当日は学長挨拶、来賓挨拶、CERECの概要紹介、2つのパネルディスカッション、質疑応答が行われました。

現代のゲームを中心とするエンタテインメントは、AI、VR、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション、半導体、ロボティクス、材料工学、医学・心理学など、多様な研究領域が融合して成り立っています。CERECは、同大が培ってきた幅広い理工系の研究・教育基盤をエンタテインメントの創造へ横断的につなぐ拠点です。大学・企業・社会が連携し、研究にとどまらず企画から開発、発信までを一貫して経験できる場をつくることで、先端技術を自ら生み出し、国際的に成果を発信できる人材の育成を目指します。また在学生だけでなく、これから大学を目指す中高生、卒業後に改めて専門を深めたい社会人、ゲームやエンタテインメントの現場で新しい研究テーマに挑みたい実務家など、多様な人が大学とつながり、学び直し、研究し、挑戦できる拠点となることも目指しています。

セレモニー冒頭、村松正和学長は、ゲームをAIや半導体をはじめとする多様な先端技術が交差し、新しい体験や価値を生み出す「分野横断的な創造工学」と位置付けました。そのうえで、学生一人ひとりが自らの専門を深く追究しながら異なる分野の仲間とつながり、ゲームやエンタテインメントを通じて新しいものを生み出してほしいと、設立への思いを語りました。続いて独立行政法人日本芸術文化振興会 審議役の山田亜紀子氏が祝辞を述べました。山田氏は、同振興会が「文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター支援基金)」を通じて次代を担うクリエイターの育成に取り組んでおり、CERECの取り組みもその支援事業の一つとして採択されていることを紹介。ゲームをはじめとするエンタテインメント分野を、創造性と技術力の双方が求められ、世界に向けて新たな価値を発信する、日本の文化芸術を支える重要な分野と位置付け、CERECが次代を担うクリエイターや研究者の育成拠点として新たな表現の創出につながることへの期待を示しました。振興会としても、文化庁とともに引き続きクリエイターの育成と創作環境の充実に取り組んでいく考えを示しています。

山田 亜紀子 氏
山田 亜紀子 氏

パネル1:久夛良木健氏と学長が語る、AI時代の学び方

パネルディスカッション1「大学とゲーム業界の本音・これからの大学に期待すること」には、村松学長と、同大卒業生で特別客員教授を務め、「PlayStation」の生みの親として知られる久夛良木健氏が登壇しました。モデレーターはCERECセンター長・学長補佐の野嶋琢也氏です。久夛良木氏は、ゲーム産業が大きく成長した今も、ゲームは次の大きな変化を迎える転換点にあるとの見方を示しました。初代PlayStationの開発では、当時は高価なワークステーションでしか扱えなかった3次元CGを家庭用ゲーム機でリアルタイムに処理し、プレイヤーの入力に即座に応答させるため、既存技術をそのまま使うのではなく、アルゴリズムや半導体技術そのものを作り直していったと振り返りました。一方で、優れた技術だけではエンタテインメントは成立せず、エンジニア、アーティスト、デザイナー、ストーリーを考える人など、異なる専門性を持つ人々が一緒につくることで初めて新しい体験が生まれると強調。村松学長も、学生がロボティクス、電子工学、AIなどそれぞれの専門を徹底して学び、その専門性を土台に分野横断で共創することこそCERECの役割だと応じました。

「これからゲームをつくる若い世代は何を身につけるべきか」という問いに、久夛良木氏が真っ先に挙げたのは「好奇心」です。自分の専門や今わかっていることの中に閉じず、「これは何だろう」「なぜだろう」「もっとできないか」と問い続ける姿勢が、学びを止めず、新しいものを生み出す出発点になると語り、学生には「すでにあるものを学ぶだけでなく、これから起こること、自分たちが起こせることを考えてほしい」と呼びかけました。AIをめぐっては、村松学長が、AIの知識と活用力はこれからの学生に不可欠だとしたうえで「AIに使われるのではなく、自分のやりたいことを実現するために使いこなしてほしい」と発言。単位を取ること自体を目的にせず、自分の成長につながる学び方を意識してほしいとも語りました。久夛良木氏は現在のAIを「生まれたばかりの赤ん坊」のような存在と捉え、過去の情報から答えを引き出すだけでなく、人間がAIと対話し、教え、刺激を与えながらともに成長していくことが重要だと指摘。AIとの共創によって自らの能力や創造性を拡張していく人材像を「スーパーヒューマン」という言葉で表しました。

さらに久夛良木氏は、所属組織名ではなく個人名で認識される「バイネーム」の大切さにも言及しました。何を研究し、何をつくり、何に興味があるのかを外へ発信することで、分野や組織を越えた出会いが生まれるとし、CERECを学生が専門性を磨くだけでなく、互いを知り、声をかけ合い、新しいチームをつくる場所にしてほしいとの期待が示されました。質疑応答で若い世代が挑戦を恐れないためにはどうすればよいかを問われると、久夛良木氏は失敗を避けるのではなくまず一緒にやってみること、失敗から学び次の試みに生かすことが進化につながると回答。村松学長も、大学は「失敗できる場所」であり、学生が安心して挑戦できる環境を整えたいと述べました。最後に久夛良木氏は「共創にはコミュニケーションが欠かせない」と学生に呼びかけ、パネル1を締めくくりました。

パネルディスカッション1(村松学長と久夛良木特別客員教授)
パネルディスカッション1(村松学長と久夛良木特別客員教授)

パネル2:ゲーム業界で働く卒業生が振り返る、大学での学び

パネルディスカッション2「電通大卒業生が語る、電通大生の強み」には、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の栗原洋輔氏と、コーエーテクモゲームスの帆山遼氏が登壇し、CEREC特任准教授の簗瀬洋平氏がモデレーターを務めました。コーエーテクモゲームスでゲームプランナーを務める帆山氏は、大学で学んだプログラミングの基礎的な考え方が、仕様書の作成や開発ツールの理解、エンジニアとのコミュニケーションなどに役立っているとし、研究で扱ったVRやモーションキャプチャーの知識も開発現場で共通言語として生きていると話しました。SIEで研究開発に携わる栗原氏は、大学での学びが「割と全部」役に立っていると説明。一つの製品をつくるにも電気、機械、心理学、語学など多様な専門分野の人と協働するなかで、専門外の領域でも背景を少し知っているだけで、相手とのコミュニケーションや課題理解が大きく変わると語りました。

話題は、8月に実施した「CEREC Game Jam」にも及びました。参加した35人の大半はゲーム制作が初めてでしたが、3日間という限られた時間で高い完成度の作品を生み出し、会場を訪れた企業関係者からは学生のAI活用レベルの高さに驚く声も上がったといいます。一方で簗瀬特任准教授は「AIを使ってゲームを作れば、それだけで面白くなるわけではない」と指摘しました。面白いアイデアを考え、手を動かし、短い時間の中で試行錯誤を重ねて作品として完成させる力は、同大で培うものづくりの素養と情報科学をはじめとする幅広い専門知識の組み合わせから生まれるもので、CERECはAIを単に使う場ではなく、学生自身の発想と技術を掛け合わせて形にする経験を積む場を目指します。

電通大ならではの強みについて、帆山氏は好きなことを深く掘り下げ、探究心を持って手を動かす人が多く集まる点を挙げ、ゲームや音楽、3Dモデルなどを自らつくる仲間から刺激を受け、自然と「もっとやってみたい」という気持ちが生まれたと振り返りました。栗原氏も、自分の好きなことに打ち込み、それを周囲に認めてもらえる環境が同大の魅力だとし、専門や趣味を深く追究することが「浮く」のではなく個性として受け止められる文化が、卒業後の技術開発やものづくりにもつながっていると語っています。現役の学生へのメッセージとして、両氏からは次のような言葉が送られました。

  • 帆山氏:「自分が何をしたいのか、心の声に耳を傾けて大学生活を送ってほしい」。授業や研究だけでなく、興味を持ったことに実際に手を動かして挑戦した経験が、将来の進路や仕事を考えるうえで大切な手がかりになるとしました
  • 栗原氏:パネル1で語られた「好奇心」を受け、「好奇心があっても、新しいことに挑戦するのは怖い。だからこそ、その壁を何度も越えてほしい」とエール。大学入学も就職もゴールではなく人生の次のフェーズのスタートに過ぎないとし、その先に何をしたいのかを考え続け、自分で次の一歩を選んでほしいと語りました

また両氏は、在学中にもっと外国語を学んでおけばよかったとも振り返りました。ゲーム開発が世界規模で行われる現在、異なる国や地域の人と直接コミュニケーションできることは大きな力になります。さらに栗原氏は、修士課程修了後に就職した自身の経験から、「博士後期課程まで進み、好きな研究をもっと突き詰めてもよかった」と感じていることも明かしました。2つのパネルに共通していたのは、自分の専門を深めると同時に、好奇心を持って分野を越え、人とつながり、実際につくってみることの大切さでした。CERECは、ゲームを中心とするエンタテインメントを接点に、学生、研究者、企業、社会が専門性を持ち寄って新しい価値を生み出す場を目指しており、電気通信大学は今後も、学生一人ひとりが「自分は何をしたいのか」を見つめ、自らの好奇心を起点に世界へ向けて挑戦できる環境づくりを進めるとしています。

出典:国立大学法人電気通信大学