山形の芋煮をウクライナの教室へ。遊佐中の探究学習に「世界に届ける」という出口

調べてまとめ、発表して終わる。多くの学校の探究学習は、そこで区切りを迎えがちです。山形県遊佐町立遊佐中学校では、その先に「世界の誰かに届ける」という次の段階が加わろうとしています。特定非営利活動法人なかよし学園プロジェクト(代表:中村雄一/千葉県松戸市)は、2026年10月15日と16日の2日間、同校で「世界とつながる学び」を実施しました。地元の食文化を調べていた生徒たちの探究は、戦時下にあるウクライナの子どもたちに向けた教材づくりへと動き出しています。

文房具支援から始まった、遠くの教室との往復
遊佐中学校となかよし学園の関わりは2025年に始まりました。生徒たちが「世界の子どもたちのために自分たちにできること」を考え、ノートや文房具を集めたことがきっかけです。文房具はなかよし学園を通じてカンボジアへ届けられ、現地の子どもたちが描いた絵やメッセージが遊佐中学校に戻ってきました。物を送って終わりにせず、届いた先にいる相手の反応から、生徒たちがもう一度学びます。この経験が、現在の探究活動の土台になっています。
この往復の仕組みを、なかよし学園は「CoRe Loop(Co-create & Return Loop)」と呼んでいます。日本の教室で生まれた教材やアイデアを海外の教育現場へ届け、現地の子どもたちが新しい学びやメッセージを加えて、日本の学校へ返します。2025年度以降、全国50校を超える学校と世界11カ国をつないできたこの取り組みは、10月12日に「EXPO FUTURES AWARD 2026」の「平和と人権」部門でテーマ特別賞(グランプリ)を受賞しました。受賞対象は「世界の子どもが未来を共創する。いのち響き合う平和教育モデル」で、受賞発表では遊佐中学校の活動も代表的な実践の一つとして紹介されています。
15日の講演会で受賞を報告した中村代表は、生徒たちに「これはなかよし学園だけがもらった賞ではありません。世界について考え、実際に行動してくれた遊佐中のみんなも一緒にとった賞です」と語りかけました。同じ日、中村代表は石黒久校長から「令和8年度 遊佐中学校学校教育アドバイザー」の認定書を受け取り、今後も同校の探究学習や国際教育を継続的に支援していくことになりました。

「芋煮を知らない相手に、どう伝える?」で探究が変わる
翌16日の「探究デー」では、生徒たちがそれぞれのテーマについて中間発表を行いました。なかよし学園が加わったグループの一つは「山形の食文化」がテーマです。山形の位置や地域の特徴に加え、家族や友人、地域の人が大きな鍋を囲む「芋煮会」や、山形のラーメン文化が紹介されました。
発表を聞いた中村代表は、「このプレゼンを、ウクライナの子どもたちに届けてみよう」と提案しました。伝える相手が別の文化圏で暮らす同世代に変わると、考えるべきことも変わります。「芋煮」という言葉を知らない人にどう説明するのか、山形は日本のどこにあるのか、なぜ大勢で一つの鍋を囲むのか。自分たちにとって当たり前だった地域の文化を、外からの視点で捉え直す必要が出てきます。
届け先として予定されているのは、なかよし学園が2026年9月に教育活動を行ったウクライナ・リビウの武道館学校です。同校では、日本から届いた教材を使い、熊本県や熊本地震からの復興について学ぶ授業が、なかよし学園の帰国後も現地の教員によって続けられています。芋煮やラーメンを紹介する構想は以前から学校同士で進んでいましたが、今回の探究デーをきっかけに、生徒自身が形にしていく探究へと一歩進みました。

教える側と教わる側を固定しない「世界学び合いプロジェクト」
なかよし学園は、こうした国境を越えた学び合いを「世界学び合いプロジェクト」として新たに展開します。日本から海外へ一方的に知識を伝える国際理解教育とは考え方が異なり、参加する誰もが学ぶ側にも教える側にもなれる仕組みです。たとえば次のような学び合いが想定されています。
- 遊佐中学校の生徒が、地元・山形の文化をウクライナへ伝える
- ウクライナの子どもたちが、自国の文化や暮らし、戦争下での経験を日本へ伝える
- 熊本は震災からの復興を、ウクライナは戦争の中で日常を守る知恵を伝える
武道館学校では、先に教材を体験した児童が次の学年に使い方を教える「教えあい・学びあいリレー」もすでに始まっています。遊佐中学校との連携は、学びを次の誰かへ渡すこの考え方を、学校や国境を越えて広げる試みでもあります。今後は芋煮・ラーメン文化の教材を武道館学校に届け、現地の生徒からウクライナの文化や暮らしについての学びを返してもらうことを目指します。さらに、地域文化や食、平和、国際理解といった生徒の探究を、海外の教育現場で実際に使える教材へ発展させていく方針です。

地方の学校だからこそ、世界に渡せるものがある
2日間の訪問では、授業以外の交流もありました。会場は校内にある生徒のフリースペース「幸自縁(こうじえん)」です。「幸せ」「自分」「縁」を重ねた名前のとおり、生徒が自分の「好き」に没頭したり、友達や地域の大人とつながったりするための場所で、中村代表はここで音楽ライブを行いました。講演者と聞き手、助言する大人と教わる生徒という立場をいったん離れ、音楽を囲んで語り合う時間になりました。
図書室での出会いもありました。中村代表が見つけたのは、絵本作家・鈴木まもる氏の『戦争をやめた人たち―1914年のクリスマス休戦―』です。第一次世界大戦中、敵同士だった兵士たちがクリスマスに自ら戦闘をやめ、言葉や歌を交わした実話を描いています。なかよし学園は10月3日に鈴木氏と「BOOKS FOR PEACE DIALOGUE 2026」を開いており、今回は同書のレビューを推薦図書として作成しました。今後は、鈴木氏や出版社などと必要な権利処理・調整を行ったうえで、同書を多言語で世界の子どもたちに届け、読み聞かせや対話を通じて平和を考える教育プロジェクトへ発展させることを検討していきます。
中村代表は「世界とつながるために、東京へ行く必要も、海外へ留学する必要もありません」と話し、「僕が答えを教えるのではなく、生徒たちの『やってみたい』の先に世界をつなげたい」と今後への思いを語りました。地元の食文化も、図書室の一冊も、生徒一人ひとりの「好き」も、世界のどこかの教室では初めて出会う教材になり得ます。地方の公立中学校の探究学習が、遠くの同世代と教え合う学びへどう育っていくのか、注目したい取り組みです。












