グロービス経営大学院が紀要第5巻を公開 「AI時代の思考力」「経営人材」「リーダーシップ」など8本の研究成果を収録

論文・研究ノート・調査の計8本をまとめた第5巻
グロービス経営大学院大学(東京都千代田区、学長:堀義人)は、2026年10月30日に「グロービス経営大学院紀要 第5巻」を公開しました。今号には論文3本、研究ノート2本、調査3本の計8本が収められています。
この紀要は、同大学院の研究成果を広く発表し、アカデミアと社会の双方に知的貢献することを目的に発行されています。執筆者は、研究活動などを行うファカルティグループの教員と、教員のもとで在学中に研究プロジェクトに取り組んだ学生たちです。
紀要は2023年3月に第1巻、2023年11月に第2巻、2024年10月に第3巻、2025年10月に第4巻が発行されており、今回の第5巻はそれに続く号となります。
3つの研究所による年次活動報告を初めて掲載
第5巻からは、同大学院の研究機関である3つの研究所の年次活動報告が新たに加わりました。各研究所の2025年度の活動内容と研究成果が紹介されています。
- グロービスAI経営教育研究所(GAiMERi):2017年2月設立。教育現場で得られる知見と、AIをはじめとするデジタルテクノロジーや認知科学の発展によるイノベーションを統合し、次世代の経営教育モデルの研究開発を進めています。
- テクノベート経営研究所(TechMaRI):2022年4月開設。グロービス・キャピタル・パートナーズと連携してスタートアップを中心としたテクノベート(テクノロジーとイノベーションを組み合わせたグロービスの造語)の研究を進め、その知見をさまざまな手段で実務家へ還元しています。
- グロービス教育科学研究所(GESRI):2026年3月設立。能力開発と認識・行動変容の仕組みを科学的に解明し、エビデンス(科学的根拠)に基づく効果的な教育の確立を目指しています。
第5巻に収録された8本の研究
AI時代の思考と英語学習
松永正樹氏と熊谷翔大氏による「思考の主導権を取り戻す~AI時代に『自分の頭で考える』ためのフレームワーク~」は、AIの普及を背景に職場で課題として語られることが増えた「自分の頭で考える」という言葉の意味を再定義するものです。同稿ではそれを、外部の情報にまったく頼らないことではなく、当事者が自分なりの問題意識にもとづいて理想と現状のギャップを見極め、枠組みを構築してロジックを精緻化し、批判的検証とメタ思考を経て導いた結論を自らの責任で示すこととして位置づけています。各プロセスにおけるAIの活用可能性と留意点を明らかにし、統合的なフレームワークとして整理しました。
米良克美氏の「英語学習法の違いが主観的幸福度と英語の自信に及ぼす影響~対人学習とAI学習の違いに着目して~」は、日本の20代〜60代の働く社会人9,691名へのアンケート調査をもとにした研究です。英語学習をしている社会人群は、非学習群に比べて幸福度・英語の自信ともに有意に高い結果でした。学習法別では主観的幸福度に有意な差は認められなかった一方、英語に対する自信については、AI単独学習群よりも対人学習群のほうが自信の醸成において高い効果を示しました。AI学習は心理的障壁の低減や発話量の確保に寄与する一方、対人学習は感情的なサポートや社会的実在感を通じて学習者の自信をより強く支えることが示唆され、AIの利便性と人間のメンタリングを組み合わせたハイブリッドモデルが心理的成果を最大化するうえで有効である可能性が考えられたとしています。
経営人材の組織適応と女性のリーダーシップ
太田昂志氏の研究は、外部から登用された経営人材の組織適応プロセスに焦点を当てたものです。中途入社経験者23名(経営人材ケース11名、境界ケース7名、通常中途ケース5名)への半構造化インタビューをもとに分析した結果、外部登用された経営人材が役割曖昧性、役割葛藤、役割遂行資源・権限の不足という三層の困難に直面していたことが示唆されました。また、こうした困難を組織内に翻訳し正当化するスポンサー機能が適応と適応困難の分岐に関与している可能性や、組織内正当性が上位者からの付与と既存メンバーからの獲得という二経路の接続によって形成される過程として理解できる可能性も示されています。組織適応は本人の能力・経験だけでは説明されにくく、役割設計や期待調整、正当性付与、支援構造といった組織的・関係的条件に左右される可能性があることが、質的データにもとづく暫定的示唆として導かれました。
澤田茉莉氏の「企業で働く女性のリーダーシップ再定義プロセス~認識と実践の関係に着目して~」では、女性リーダー6名へのインタビュー調査を質的に分析しました。アウトサイダー性の自覚や多様な認識論的資源を基盤に、主流のリーダーシップ規範の相対化と再定義が進むプロセスが確認され、女性リーダー育成や組織におけるリーダーシップの再定義に向けた示唆が得られたとしています。
このほか、第5巻には次の4本も収録されています。
- 「公営競技における罰則強化の効果~ボートレース選手のスタートタイミングに関する実証分析~」(倉浪孝明氏、橋井国明氏):2025年5月施行のフライング罰則強化について、改正前後各6ヶ月間の同一選手1,544名を比較
- 「コミュニケーションロボットのデザインにおける、構成要素の決定順序と判断根拠に関する実態調査」(陣内弘喜氏、南出由希氏、川口愛依氏、荒井保洋氏、小川智子氏):日本国内で発売された6製品の開発者7名にインタビュー
- 「地域新電力の事業目的に対する評価・報告の実態」(新家愛氏、折原健治氏、桐本喬晴氏、鶴見彩子氏、小林悦子氏、難波美帆氏):地域新電力98社の公開情報を整理し、46社を対象とした質問票調査で14社から回答を得た
- 「妊婦の栄養状態の改善に向けた行動変容への働き掛けにおける助産師の役割と可能性~出産前の女性へのたんぱく質の摂取の認知向上を例に~」(山崎俊介氏、矢島奈津子氏、渋谷幸絵氏、保木悠氏、原田大亮氏):アンケート調査とインタビューにより助産師の役割を検討
グロービス経営大学院は今後も、実践的な教育活動とあわせて研究活動に注力していく方針です。先端の経営手法やテクノベートに関する研究、教育手法に関する研究、実務知見を活かした研究などを進め、実務に直結した課題設定と実証的な分析を通じて、教育・研究・企業実務の橋渡しを目指すとしています。












